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http://yzkak.namidaame.com/ [Honey**]


嘘吐きな恋人《幕間》

本当は、知ってた。
知っていて、でも、あえてそれを言わなかった。
ひとつだけ言い訳をするとしたら、千沙がそんなにあいつのことを必死になるくらい大事に思ってることに気づいていなかっただけで。
気づいていいないふりをしていた、だけで。


「千沙、おまえ、胃に穴空きかけてたんだって?」

まさに勝手知ったると言うやつで、久しぶりに会った千沙の兄ちゃんに簡単に挨拶だけして階段を上って、2階の千沙の部屋を開ける。
一昨日、放課後に倒れたと聞いた時にはめちゃくちゃびっくりしたけど、すぐに退院もできたみたいで、少しだけほっとした。
今ベットに転がってるのも、しんどいからと言うよりかは兄貴に安静にしとけとくどくど言われたからに違いないとその表情で当たりを付ける。

「その言い方やめろよな、なんかすげぇ神経質みたいじゃん、俺」
「でも事実なんだろ? まぁ神経質っつうか、ストレス過多っぽいけどな、おまえの場合」
「……それもやめろ」

ものすごい不本意そうに眉間にしわを寄せた千沙に、思わず噴き出してしまった。
でも、なんかあれなんだよな。

「千沙、さー」
「なんだよ。っつかお前部活は? まだ4時なんだけど」
「そんなん、休んできたって。いいじゃん、お見舞い。いやつかさ、なんか倒れた割にやたらすっきりした顔してんね、お前。なに、とうとう城井と本気で別れた?」

問いかけつつも、そうじゃないんだろうなとは簡単に予測できる。だって、ようやく城井と距離を置く選択肢をとってくれたと思ったのに、結局千沙は苦しそうな顔のままだったんだ。
予想通り、そんなんじゃねぇよと穏やかに千沙が小さく笑う。

あ、ひさしぶりに見たなと思って、こんなんが久しぶりとかどんだけだよと内心城井を責める。あの野郎、いろいろと好き勝手しやがって。

「ただ、なんつうか……もっかいちゃんと向き合ってみようかなって、そう決めただけ」

その調子に、あぁ決めたんだなと悟ってしまう。
だから俺は何も否定できなくなって、ただふうんと相槌を打つにとどめる。
ふっと千沙が窺うように俺を見た。

「木原にも悪かったな。心配かけて」
「あ、迷惑じゃなくて心配だってのは自覚してんのな」
「兄貴に散々説教されたからな。姉貴にもぐちぐち泣かれたし」

まぁなんだかんだで千沙の姉ちゃんは問題ある人だけど、その分兄ちゃんがしっかりしてるしな。
あとさと少しだけ言いづらそうに千沙が言葉を紡ぎ始める。

「おまえが心配してくれてんのも分かってんだ。その……しろとのこと」
「……あぁまぁ、そだな」
「でも確かにあいつすぐ浮気するしさ、しょうもないやつだけどさ、でもやっぱ居たいんだ、一緒に」

こんな言い方をしたらきっと千沙は怒るんだろうけど、その表情はなんだか恋してる女の子みたいで。
俺はもうならいいんじゃねぇ? と言うしかできなかった。

それからくだらない雑談を少しだけして、早く治せよと俺は腰を上げた。あまり長居するのもよくないだろう。
そしてそのまま外に出る。軒下から一歩踏み出すと、きつい日差しに肌があっという間に暑くなるようだった。


――なぁ、木原。

ひどく真剣な目で俺に相談を持ちかけてきた千沙を、俺は鮮明に覚えている。
半年ほど前の冬だ。1年の3学期。
長い付き合いだけど、人を頼るのが苦手な千沙が俺に相談事をしてくるのは珍しいことでもあった。

――しろがさ、浮気してるかもしれない。結城に泣きつかれたんだよ、別れてって。

そう俺に尋ねた千沙は、確実に否定を求めていた。なぁしろがそんなことするはずないよな、と。

隣のクラスの結城里帆が城井に思いを寄せているということは、たぶんうちのクラスの奴だったら誰でも知っていただろう。休み時間ごとに突撃してくる結城を、例によって女を邪険にしない城井は優しくいなしていたけれど、面倒だと思っていることは俺の眼には明らかだった。
そもそも城井は、誰にでも優しくする割に、千沙以外をどうでもいいと思っている節が強い。

――この間、しろとデートして……やったんだって。私は初めてだったんだから責任とってってそう泣くから。

それは千沙は何も言い返せなかったんだろうなと、好き勝手結城に言いくるめられている千沙の図が簡単に思い浮かぶ。

たぶん、嘘だろうなと俺は分かっていた。
城井がもし結城に手を出したいと思っていたんならもっと早い段階で上手くやっていただろうし、そもそもあんな面倒くさそうな女にわざわざ手を出しはしないだろう。

だから本当だったら俺はこう言えば良かったんだ。
そんなん、結城がただ言ってるだけだろ? 城井本人にちゃんと聞いてみろよと。

千沙が、その家庭環境から浮気という行為を嫌っていて、生理的に受け付けないことも俺は知っていた。
だからおそらく、今は『自分の恋人が浮気をしたのかもしれない』と言う仮定で思考回路が混乱しているのだろうと言うことも。

――なぁ、木原。どう、思う?

何も言わない俺に焦れたのか、縋る色を千沙が強めた。その瞳に呑まれたように気づけば唇を動かしていた。

『そんなん、今まであいつが浮気してなかったことの方が逆に奇跡だろ。今までもおまえが気付いてなかっただけでしてたんじゃねぇの? 俺も結城と仲良さそうにしてんの、見たことあるよ』

お付き合いくださりありがとうございました!
次回からはしろちゃんの挽回ターン(予定)です^^