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http://yzkak.namidaame.com/ [Honey**]


嘘吐きな恋人《10》

うちのクラスの作業は俺がぼーっとしている間に順調に進んでいたらしい。
たぶん夏休みにはそんなに作業しなくても済むんじゃないかなと、野球部の練習がある木原はほっとした顔でこぼしていた。
そういや、と思い出すのは去年の夏休みだった。

あのころは、しろと同じクラスで、みんなと一緒にワイワイ作業して、終ってから二人で帰って――というそれだけがすごく幸せで楽しかったっけ。

それはなんだかひどく昔のことのようで。悲しいと言うよりかはこんな風にしんみり思い出してしまう自分に驚いた。

あぁでも、今はしろは――。

工具箱を返しに技術室に向かって階段を上っていると、上から人が降りてくる気配がした。
この校舎の階段は狭い。両手に結構な量を持っていることもあったから、自然すれ違うのは避けようと踊り場で立ち止まる。階上から姿を見せたのは、あまり会いたくはない人物だった。

「なんだ、南じゃん」

必要以上に笑顔を乗せて近づいてくる三浦から、そっと視線を外す。
喋りたくはない。その意志を体言するようにしたそれにも、三浦は一切堪えたそぶりを見せない。さも親しげに正面で立ち止まって話しかけてくる。

「南のとこ、なにするんだったけ? 大変そうだね」
「別に、そんなに。夜店みたいなのするだけだから」
「へぇ、楽しそうだよね。いいじゃん。俺、あんまりそういうの興味なくてさ、団体行動みたいなの? だからクラスの準備とかぜんぜん手伝ってなくて」

「当日は適当に冷やかすの楽しみにしてるんだけどさ」と含んだ笑みを浮かべる三浦に、反応するのも面倒で、「急いでるから」と三浦の横をすり抜けて階段に足をかける。
そのまま1段2段と上ったところで、「ねぇ」とやたら媚びた声が追いかけてきた。応えずそのまま足を進める。なのに、三浦の声は勝手に続いていく。

「誰と周るのって、聞かないんだ?」

だから、どうでもいいと思いたいんだ、俺は。
最近、自分がひどく女々しいような気がしてしょうがない。せめてそんなのを態度に出したくなくて、だから言わないだけだ。
なのになんで、いちいち絡んでくるんだろう。

「準備抜けて誰となにしてるって、聞かないの」

声と一緒に肩に手がかかった。そんなに構われたいのか、自慢したいのか。荷物のせいで振り払えないそれに、でも振り向くことはしないまま、言葉だけを吐き出した。

「それで、おまえはなんて言われたいんだよ」
「んー、別に。ただちょっと、気になんないのかなぁって」
「話それだけなら、もういいだろ。それこそ俺には関係ない」

しろのそういった交友関係に口出すつもりはないのだと言外に告げる。だからもうどこにでも行けばいいのに。そう思うのに。
背後でくすっと芝居がかった笑い声が聞こえた。そしてそのまま三浦が階段を上ってわざわざ俺の前にまで回り込んできた。

その、まるで女みたいな顔が笑みをかたどるのが、ひどく癪に障ったけれど。

「余裕ないなぁ、南。そんなんだから無理なんだって」

無理って、何が無理だって言うんだ。反射のようにせりあがってきた台詞を、俺は無理やり飲み込んだ。
返ってくる内容なんてわかりきっているのに、重たいものを呑んだような胃の痛みが存在感をはらまし続けている。
余裕なんて、あるわけがない。

「南がさ、中途半端なことばっか言ってるから、だからしろも困ってんじゃん。別れるだ別れないだ、いちいちしろの行動が気になるんならすっぱりやめたらいいのに」

なんでそんなことをおまえに言われなきゃならないんだ。そう確かに思うのも本当なのに、三浦の声が毒みたいに浸食していく気がしてしょうがなくて。
それでも最後の意地みたいに、何も言わずに三浦の横をすり抜ける。
三浦ももう言いたいことは言い切ったのかそれ以上追いかけてはこなかったけど。

「俺なら、もっと上手くやれるのに」

楽しそうに馬鹿にしたように最後に放られたそれは、確実に身体を抉り去っていく。

――女じゃない。三浦みたいにかわいいわけでも、華奢なわけでもない。それでも俺を選んだのは、しろだったはずなのに。

なのになんで、今こんな風になってしまっているんだろう。しろは俺の傍からいなくなっているんだろう。

技術室のドアを足で開けて、乱暴に箱をテーブルの空きスペースに置いた。そのまま机のふちに縋るようにしてずり下がっていった身体を起こす気になれなくて、他に誰もいないのをいいことにしゃがみこむ。

なんで、なんだろう。

もうずっと馬鹿みたいにそればかりを繰り返している。でもいつまでたっても答えなんて出なくて。
捨てたくても、やめたくても止められなくて。どうしようもなくて。
もうどうでもいいんだといくら言い聞かせても、収まりがつかなくて。
こんなままならないのも、振り回されるのももう嫌だと、無理だとそうやっと思えたはずなのに。

「―――千沙?」

なのになんでいつもこんなタイミングでやってくるんだろう。
会いたくて苦しくて、でも放っておいてくれればそれはきっと納まるのに。我慢できるのに。

なんでしろはこんなときにばかり、現れるんだ。

お付き合いくださりありがとうございました!